25c -その箱は少女の悲鳴を漏らさない-
「……ここは、一体どこなの……?」私は見知らぬ部屋に弟の祐樹と倒れていた。見渡す限り記号のような模様のタイルが張り巡らされた正方形の部屋。部屋の中に窓はなく、扉があるだけ。自分の意志でこんなところに来るはずはない。だとしたら、誰かに無理やりここに連れてこられたとしか思えない。「確か、祐樹と病院の周りを散歩していて、それから……」それから――どうしたっけ?思い出せない。まるでそこだけ、記憶がごっそり削除されたかのように。ただ何かが必死に『ここから逃げろ』と訴えかけてくる。「祐樹、お姉ちゃんと一緒に行きましょう。一刻も早くここを出なくちゃ」そして私は祐樹の手を引くと、扉に向かって歩き出した。 無料体験版ダウンロード