2012年05月18日

ReNN

世紀の亜人形師である卓飛氏が、亜人形制作の集大成とも言える「完全体」を作り上げてから5年が過ぎていた。卓飛氏は亜人形の制作に関するノウハウを世間一般に公表した。それは、より質の高い亜人形が簡単かつ安全に作れるように、そしてより多くの人が亜人形の恩恵を得られるようにと願っての事だった。 こうして亜人形そのものが次の世代へと進化する事となったのだが、結果は皮肉にも卓飛氏の期待を裏切る事になっていた。亜人形は確かに進化した。まるで人工の愛娘のようにその表情は豊かで、義妹のように愛らしく、女中の様に忠実な存在でありながら、恋人のように主を気遣う彼女達に、世間の富豪達は以前にも増して高価な値段を付けた──理想的な僕(しもべ)として。より気高く賢い亜人形を持つ事こそが富豪達のステータスとなった。その為に亜人形本来の持つ資質は無視され、結果のみを人々は求めた。作製よりも、その亜人形をどう教育するかに重点が置かれ、教育しても育たない亜人形はすぐに慰み者として売り払われる。その教育の結果、亜人形一体の値段は城が買えるほどにまでつり上がっていた。特選民達は本来の自分達の役割を忘れて金と亜人形を集める事に没頭し、その結果政治と経済は混乱し、貧富の差が著しくひらいた為に人々は生活レベルによって住む所まで区別されるようになってしまった。…そしてここに一体の亜人形の物語が始まろうとしていた。黒い髪と黒い瞳、飾り気のない風貌に静かな空気を纏う彼女。暴動の起こりつつある街角で誰を待つのか、彼女はじっとうずくまっていた。    無料体験版ダウンロード